欧州利下げに限界論
ゴールドマンサックスの調査部が、「政策金利の変動が貸出金利にもたらす効果はスペインやイタリアでは減少し、ドイツやフランスでは拡大している」と分析しているらしい(今朝の日経国際2面)。
ある国の内部においてもっとも信用力が高い主体は、企業でも特定の家計(個人)でもなく国家であるという考え方のもとでは、一国の政策金利はもっとも低い貸出金利であり、国内におけるその他の主体に対する貸出のベースとなる指標である。具体的には、貸出先の返済のリスクの程度に応じて、この政策金利に上乗せ(スプレッド)を行い、最終的な貸出金利が決定される。このため、通常であれば、政策金利の変動が貸出金利にもたらす効果は、同じ前提条件のもとでは、いずれの国においても変わらないはずである。
今回のゴールドマンサックスの調査部の分析が意味するところは、資本市場が貸出金利を決定する際の前提条件が、スペイン・イタリアと、ドイツ・フランスで異なっていると思われる。
スペイン・イタリアは財政問題を抱えており、今後ユーロへの依存度が高いことが想定されるため、一国としての政策金利にあまり意味がない。一方で、ドイツ・フランスはユーロ圏を支える大国であり、これらの国の政策金利はユーロ全体の今後へ大きな影響を及ぼす。個人的見解だが、ゴールドマンサックスの調査部の分析は、こうした見方を資本市場が強めていることを示唆していると思われる。
欧州のシステムは、PIIGSとドイツ・フランスという経済状況や財政体質が全く異なる国家が、低い壁を残してひとつになっているところに特徴がある(一定の壁を残しつつ様々な人々が暮らすシェアハウスをイメージしてもらえるとよいかもしれない)。
景気上昇期においてはこのシステムは問題となることは少ないが、景気下降期においては資源の再配分という大きな問題が頭をもたげる。
景気下降期においては、EU全体の資源の価値が減少していくが、個々の国でみれば減少が大きい国もあれば、小さい国もある。もしくは一部の国では資源が増加するケースもある。たとえば、生産性の低いスペイン・イタリアといった国に投下した資本を引き揚げ、より生産性の高いドイツ・イタリアに資本投下したほうが、その後の成果が大きくなると予想される場合である。
このように資本主義においては、資源はそれをより有効に活用できる場所へ移動が促されるため、資源の再配分において、配分に受けることができる国とできない国がでてくる。景気下降局面においては、自由主義経済にまかせているとEUにおいてこうした資源の再配分が経常的に行われ、常にスペイン・イタリアの財政問題はくすぶり続けると思われる。
先日の日経新聞において、同じゴールドマンサックスのジム・オニール氏は、次のように言っている。
「・・・ドイツの迅速な方針転換、欧州中央銀行(ECB)の市場介入のいずれかか双方がない限り問題は広がる。ドイツは欧州統合を進めたいが、追加の支払は嫌なのだ。市場は常にそこを見ている。ユーロ危機は欧州政治の機能不全で起きている。」
個人的見解だが、資本市場を中心に行われる資源の再配分を政治主導で修正することができるか否か、というところが今後の欧州問題のポイントのように思う。すなわち、欧州のシステム(EU)の利益を享受しているドイツ・フランスが自らの得た利益の一部をスペイン・イタリアに分け与えることを、ドイツ・フランスの首脳陣はそれぞれの国民に納得させられれば欧州問題は解決へと向かうだろう。
欧州各国の政治家はとても困難な局面に面していると思う。